う蝕の基本的な知識
細菌と抵抗力について
ミュータンス菌とラクトバチラス菌
う蝕を引き起こす病原性がもっとも強い最近は、縁上(歯肉より上の部分)プラーク中に多く存在するミュータンス菌(Mutans streptococ-ci)です。この菌は、歯面に対して強い付着能を持っているため、やがてコロニーをつくり、低いpH環境の中でも生存し、酸を産生します。脱灰の初期に重要な役割をはたすと考えられています。
もうひとつの強い病原性をもつラクトバチラス菌は、付着能をもっていませんが、定着できる「すみか」があると増殖を起こし、しばしばう蝕の深部にみられることから、脱灰の後期に重要な役割をはたすと考えられています。ラクトバチラス菌は、口腔環境が不良であればあるほど増殖するところから、その量を知ることで口腔環境や食習慣を客観的に評価できるといえます。
唾液の働き
人間のもっているう蝕に対する抵抗力のうちでもっとも大きな力は唾液です。唾液の作用には、次のことがあります。
- 1.洗浄作用
- 唾液は歯面や口腔内を洗浄します。
- 2.殺菌・抗菌作用
- 唾液中の免疫抗体、リゾチーム、ペルオキシダ―ゼ、ラクトフェリンなどに抗菌作用があり、プラークの形成・発育を抑制します。
- 3.緩衝作用
- 口腔内の酸、アルカリを中和します。
- 4.抗脱灰作用
- pHを高めて、歯の溶解を低下させ、また、エナメル質、象牙質の再石灰化を促進させます。
唾液はこのような優れた働きをしていますので、分泌量が多いほど、う蝕の予防効果は高くなります。
歯質について
その人の歯質も、抵抗力のひとつです。
―般的に、エナメル質の脱灰が起こる臨界pHは、5.5~5.7ですが、象牙質、セメント質、幼若永久歯、乳歯の場合、pH5.7~6.2程度とされています。歯質によって臨界pHが若干異なる場合があるのです。