長期メインテナンス結果
医療関係者用
一般市民が歯科医院を選ぶ基準として、もっとも信頼出来るものはデータ(医院の実績)に他ならないと我々は考えています。残念ながら、本邦において、学会の認定医であることや講習会を受講したことが必ずしも医療の質を担保することにはならないこと、また一般メディアが発行する「おすすめ歯科医院本」の類もその情報の質に疑問をいだかざるをえないことは、多くの歯科医療関係者が感じているところだと思います。
我々は今回、歯科医院における医院のデータ公開のひとつの在り方として、当診療所における長期メインテナンスの実績をHP上に公開いたします。
※本調査に利用したデータの抽出基準および方法について、合わせてHP上で公開致します
ダウンロード可能
これは2008年にインターネット上で行なわれた「歯みがき以外で、口の中を清潔、健康に保つためにあなたが心がけていることは?」というアンケートの結果です。結果をみると11,963人の回答者の内、「歯科で定期的に検診を受けている」と答えた人が僅か1.5%しかいないことが分かります。
歯科医療におけるメインテナンスの重要性が医療従事者の間では以前より一般的になったとはいえ、国民にはほとんど普及していないことがわかります。
日吉歯科診療所では30年前よりメインテナンスを基盤とした診療を行っており、現在では患者の65%がメインテナンスを目的として来院しています。また20歳以下の小児歯科部門に関しては、患者の92%がメインテナンスを目的として来院しています。このように、メインテナンスを目的として患者が歯科医院に来院することが「あたりまえ」と言ってもよい環境になっている日吉歯科診療所における、患者の長期メインテナンスの結果について、以下に掲載いたします。
成人部門メインテナンス結果
データは2008年、2009年2年間に日吉歯科にメインテナンスのため来院した20歳以上の患者(4,754人)を対象としました。対象患者のメインテナンスの初診からの経過年数は5年以下:1,972名、6~10年:1,129名、11~15年:851名、16~20年:427名、21年以上:375名です。
データを分析するにあたり、全患者を来院状況別に分類しました。定期メインテナンス患者とは、齲蝕および歯周病の診査診断、歯科衛生士による初期治療、歯科医師による保存、補綴、歯周治療を終了後、メインテナンス間隔が2年以上あかずかつ決められたメインテナンスの70%以上来院している患者を表します。不定期メインテナンス患者とは、齲蝕および歯周病の診査診断、歯科衛生士による初期治療、歯科医師による保存、補綴、歯周治療を終了後、上記の条件を満たさないが、長期的な視点でみると継続的にメインテナンスに来院している患者を表します。不良患者とは、齲蝕および歯周病の診査診断、歯科衛生士による初期治療、歯科医師による保存、補綴、歯周治療を終了せず、不具合がある時のみ来院(メインテナンス目的で来院しない。)する患者を表します。
全体の約68%を定期メインテナンス患者が占めており、不定期メインテナンス患者も含めたメインテナンス率は94%です。
本調査の対象となった患者の初診時年齢階級別の人数分布です。
本調査の対象となった患者の初診時年齢階級別の歯周病進行度です。初診時年齢20~34歳の階級では、約93%の患者が健康もしくは初期の歯周病の状態です。一方、初診時年齢55歳以上の階級では、わずか約37%の患者が健康もしくは初期の歯周病の状態です。このことは、メインテナンスを開始する年齢が早い程、より確実にかつ予知性を持って歯肉の炎症のコントロールを行なっていけることが予測されます。
本調査の対象となった患者の初診時年齢階級別のDMFTです。初診時年齢19歳以下の階級では、68.4%の患者が初診時DMFT4本以下です。一方、初診時年齢55歳以上の階級では、約90%の患者が初診時DMFT10本以上です。このことから、メインテナンスを開始する年齢が早い程、充填物が少ないため口腔内がコントロールしやすく、再治療を繰り返さずに済む環境であることが予想されます。
図は日吉歯科診療所に長期にわたり定期に来院した患者がメインテナンス中に喪失した歯牙数の平均値をグラフにしたものです。縦軸は失った歯の本数、横軸は初診時の年齢を示します。赤、黄色、緑、そして青の折れ線グラフは、それぞれメインテナンス期間が10年以下、11~15年、16~20年、20年以上の患者のグループの平均喪失歯数を示します。(尚、本結果では、メインテナンス開始時に歯科医学的に抜歯適応であったが患者の希望により保存していた歯牙が喪失した場合は、それを除外しています。)
厚生労働省が6年毎に実施している歯科疾患実態調査の1987年および2005年の調査結果を利用し、18年間の日本国民の平均喪失歯数を概算すると、1987年当時20~34歳(2005年38~52歳)だった国民の平均喪失歯数は1.76本程度と推測されます。また1987年当時45~54歳(2005年63~72歳)だった国民の平均喪失歯数は6.12本程度と推測されます。
参考:2005年 歯科疾患実態調査統計表 表Ⅲ-5-5 一人平均現在歯数の推移
緑の折れ線グラフ(メインテナンス来院年数:16~20年)をみてください。初診時に年齢が20~34歳だったグループの平均喪失歯数は0.3本です。初診時に年齢が45~54歳だったグループの平均喪失歯数は1.3本です。おおまかな比較ですが、およそ18年間における平均喪失歯数が、両方のグループにおいて、歯科疾患実態調査の結果と比較し、極端に低いことがわかります。このことは、メインテナンスにより歯の喪失が防がれていることを示しています。
また、このグラフからはメインテナンス開始時期(初診時の年齢)が早い程、喪失歯数が少ないことがわかります。例えば21年以上の長期メインテナンス患者のグラフを見てみると、20~34歳に初診で来院した患者のメインテナンス期間中の平均喪失歯数は0.4本ですが、55歳以降に初診で来院した患者の平均喪失歯数は1.5本です。このことは、若い時期からメインテナンスを行なうことが、より多くの歯の喪失を防ぐことになる、ということを示しています。
次の表は日吉歯科診療所に長期にわたり不定期に来院した患者がメインテナンス中に喪失した歯牙の本数の平均値をグラフにしたものです。
緑の折れ線グラフ(メインテナンス来院年数:16~20年)をみてください。初診時に年齢が20~34歳だったグループの平均喪失歯数は0.46本です。初診時に年齢が45~54歳だったグループの平均喪失歯数は1.2本です。不定期にメインテナンスに来院された患者のグループでも、およそ18年間における平均喪失歯数が、両方のグループにおいて、歯科疾患実態調査の結果(推測値:20~34歳1.76本、45~54歳6.12本)と比較し、極端に低いことがわかります。このことは、不定期の来院でも継続的なメインテナンスにより多くの歯の喪失が防がれていることを示しています。
また、このグラフからもメインテナンス開始時期(初診時の年齢)が早い程、喪失歯数が少ないことがわかります。例えば21年以上の長期メインテナンス患者のグラフを見てみると、20~34歳に初診で来院した患者のメインテナンス期間中の平均喪失歯数は0.5本ですが、55歳以降に初診で来院した患者の平均喪失歯数は2.3本です。定期的に来院した患者のグループに比べると失った歯の本数は多いですが、やはり若い時期からメインテナンスに通うことが、より多くの歯の喪失を防ぐことになる、ということを示しています。
図は日吉歯科診療所に長期にわたり定期に来院した患者がメインテナンス中に歯周病が原因で喪失した歯牙数の平均値をグラフにしたものです。初診時年齢が高齢である程、歯周病由来で喪失する歯牙が増える傾向にあります。これは、初診時年齢階級別歯周病進行度から予測される結果と一致します。現在、喫煙の有無による平均喪失歯牙本数を調査中です。これにより喫煙が歯牙喪失にもたらす影響がより明確になることが予想されます。
図は日吉歯科診療所に長期にわたり定期に来院した患者がメインテナンス中に縁下カリエスが原因で喪失した歯牙数の平均値をグラフにしたものです。初診時年齢の違いにかかわらず、縁下カリエスが原因で歯牙をほとんど喪失していないことがわかります。
図は日吉歯科診療所に長期にわたり定期に来院した患者がメインテナンス中に根尖性歯周炎が原因で喪失した歯牙数の平均値をグラフにしたものです。初診時年齢が高齢である程、根尖性歯周炎由来で喪失する歯牙が増える傾向にあります。
図は日吉歯科診療所に長期にわたり定期に来院した患者がメインテナンス中に歯根破折が原因で喪失した歯牙数の平均値をグラフにしたものです。初診時年齢が高齢である程、歯根破折由来で喪失する歯牙が増える傾向にあります。
小児部門メインテナンス結果
データ対象者は、2008年1年間に日吉歯科に来院した20歳以下の患者(2,892人)としました。その内訳は、男性1,385人、女性1,507人で、男女比にそれほど差はありません。
データを分析するにあたり、全患者を来院状況別に分類しました。定期メインテナンス患者とは、メインテナンス間隔が1年以上あかずに継続的にメインテナンスを受けている人を表します。不定期メインテナンス患者とは、過去においてメインテナンス間隔が1年以上あくことがありますが、メインテナンスを受けている人を表します。不良患者とは、MTMが終了せず、不具合のある時だけ治療に訪れる人を表します。その他、現在治療中、引っ越しを含めた5つに分類しました。
全体の約75%を定期メインテナンス患者が占めており、不定期メインテナンス患者も含めたメインテナンス率は約90%です。現在治療中や引っ越しを除いた、メインテナンスに応じていない不良患者は、4%とごく少数であることが分かります。
定期メインテナンス患者と、その中で5歳以前より来院している人、さらに家庭用カルテである健康ノートを持っている人のそれぞれの状況を、2005年に実施された歯科疾患実態調査(765人)の結果と比較しました。
定期メインテナンス患者、定期で5歳以前より来院している人、定期で5歳以前より来院し健康ノートを持つ人では、いずれもDMFTが歯科疾患実態調査よりもかなり低いことが分かります。また、これら3つのグループの差は主に12歳以降に出てきており、20歳では大きな開きになっています。定期で5歳以前より来院し健康ノートを持つグループでは、年齢が増加してもDMFTがかなり低い値で抑えられていることが分かります。
定期メインテナンス患者は、歯科疾患実態調査に比べ、カリエスフリー者率がかなり高い値で維持されていますが、定期で5歳以前より来院している人、定期で5歳以前より来院し健康ノートを持つ人では、さらに良好な値を示しています。定期で5歳以前より来院し健康ノートを持つグループの20歳では、約90%がカリエスフリーを維持しています。